4.7 ビジネスとマネジメントに進化心理学を導入する
https://gyazo.com/68191fb0ef6228bb11f91bad178bccdb
研究内容
ビジネスにおける協力
家族企業
上級管理職の発展
組織の変革
管理職の職業流動性
マネジメント研究に進化心理学の理念を導入しつづけている
進化心理学のアイディアをビジネスの世界に紹介する
学術記事や経営者向けの記事を執筆
一般向けのビジネス書"Managing the Human Animal"を刊行
家族経営について進化的視点で研究
企業幹部向けの講座やコンサルティング
この領域での初期の仕事とその影響
反対もあり、それは主に社会構成主義学派によるもので、彼らは進化的な見方を素朴な生物学的決定論として事実を捻じ曲げて伝えており、激しく抵抗していた ある会社は、「家族(店舗)」、「村(近隣の少数の店舗からなる集まり)」、そして「部族(総従業員数が150人以内の地域別の店舗グループ)」として再編成した(Johnson, 2005) 家族企業――進化心理学の応用の実例
血縁関係を基盤とする組織には、それ特有の多種多様な葛藤や課題が生じる一方で、特有の強みもあるはずだ
実証研究
最初に、家族企業の文化や気風に焦点を当てた
次にリーダーシップの問題
3番目に家族企業の跡継ぎの問題
最後に家族企業内の対立に注目
この研究から得られた結論
家族企業は中国や極東だけではなく、世界のあらゆるところで存続している、大いに成功しているビジネスモデル
家族は、その献身と活力を中心に、柔軟で実利的な会社を作ることができる
家族企業は多くの点で、ヒトが狩猟採集民として過ごしてきた、最も簡素で基礎的なあり方に近い
仕事と家を区別しない
情緒的な血縁者どうしの絆を持つ人々と共に働く
労働とその対価を共有する
将来への投資やノウハウを次世代に遺産として残す
家族企業は強力な企業内文化を作ることで、しばしば、そうでない企業をしのぐ業績をあげる(Dyer, 2006)
競争市場において企業文化は、ある種の、持続的で真似のできない比較優位をもたらすことがある e.g. 共通の目標を達成するために社内の利害関係者を結束させる
e.g. 協力や企業への献身などのポジティブな社風を作り出す
e.g. 社外の利害関係者との強固で長期的な関係を形作る
これらの強みは家族性が企業内に浸透することによって作られる
家族意識は、温かさや柔軟さ、所属意識、気安さ、反応の速さ、新しいアイディアや支援などを生み出す
家族意識を浸透させる過程では、リーダーが重要な役割を果たす
リーダーが解決しなければならない最重要課題は、権利、義務、利益、基準やルールの遵守などにおいて、家族と家族以外を差別し、身内びいきに陥るリスクを回避することであり、さらには重要な役割を確実にスムーズに継承できるようにすること
優良企業は、明瞭で包括的なガバナンス・システムによって、意思決定における公平性や透明性、公平で効率的な資源分配、円滑な権力移譲、助言や指南の独立性、対立の早期発見・早期解決を保証している
優良企業はまた、効果的なプロセスによって、強固な家族文化が排他性につながることを抑えつつ外部人材を採用し、重責を伴うオーナーや経営陣を引き継ぐ次世代の育成を行っている
血縁関連の対立は、家族企業に特有の問題であり、予測し、抑制される必要がある
最も一般的なのは、血縁者と非血縁者の対立、親子の対立、きょうだい間の対立、姻戚関係の対立
家父長はしばしば、自らの統制下に置こうとする相手、とりわけ自分の子供達との意見対立から激しい争いを起こす
父と息子の対立は、それぞれの支配力を行使しようとするため、特に頻発する
きょうだい間の対立も多くの家族企業を破綻させており、特に男兄弟が後継者や支配権をめぐって争いがち
最後に、姻戚関係の対立(夫婦間)は、企業の分裂につながることがあり、特に夫婦が一つの統合された一族の異なる分家の出身である場合に起こりがち
進化心理学をビジネスリーダー達に紹介する
企業幹部たちと行ってきた研究や執筆作業では、私は三つの主要テーマを掲げている
状況を通じて一貫している個人差や自己観が人間行動に果たす役割
世界的な脅威や危機への対応策の欠陥や限界
最も重要な前提は、リーダーシップとは社会システムの性質、あるいはもっと言うと機能である、ということ 私たちは、巨大な集団の中で優れた柔軟性と巨大な力を行使する、社会的動物 組織化の手段には、規則、慣習、合意など、様々な方法がある
リーダーシップもそういった方法の一つであり、共通目標の達成のため、他者の行動を指揮・調整する権利を、一人または複数の主体に付与するというもの
これは、ヒトが特に好む方法
オスをトップに置く順位制はすべての霊長類で見られ、個々のメンバーを先導する権力を与える、効率的な方法 訳注. キツネザルなどメス優位社会もあり、また群れを先導するのと高順位に立つことはイコールではない 私たちヒトは、高度に集合的な合意形成に基づく形から、トップダウンの専制君主制まで、多種多様なリーダーシップを生み出した
文化は変わりゆく外の世界の要求に応えつつ、同時に、比較的不変であるヒトの本性からの要求を満たし、その本性によって形成される 目立った例として、気候変動をきっかけとした農業の発明や、それに続く社会イノベーションの積み重ねが文明の進歩をもたらしたことが挙げられる リーダーシップの歴史は、異なる状況に置かれた社会がそれにふさわしいリーダーを必要としてきた、とまとめることができる
これは、富の主滅が早く、集合性の高い移動生活を送っていた部族に適していた
農業の発明とともに、資源、そして権力の蓄積が起こり、軍閥文化、奴隷制度や、絶対的な権力を持つ支配者を生み出した 過去数千年の間に、リーダーシップはより集団全体の意見を取り入れる形へと進歩的変化を遂げた
リーダーは、教育水準が上がり、力を得た集団メンバーの要求に応えねばならなくなった
ビジネスの世界の様々な形のリーダーシップは、それぞれの状況の産物
環境が課した制約の性質や、組織モデルの構造や機能、部下の心理状態、部下にどれだけ辞職の自由があるかといったことが、リーダーシップに影響を与える
これは、しばしば非常に政治的なプロセスでもある
リーダーとなる女性はまれである
男性優位の順位制に基づいた組織のデザインが優勢であることによるもの
中心的メカニズムは、トーナメント形式の連続した出世競争であり、女性にとっては本質的に魅力のない環境を生み出している
しかし、世界は今、女性にとって好ましい方向に、つまり順位に重きを置かない、よりフラットで多重的な企業環境へと変わりつつある
オールラウンドなリーダなど存在しないから
リーダーの失敗は対照的な2種類に分けられる
柔軟性の不足による失敗
適応の失敗には二つの主要な要因がある
自己制御の失敗
強烈な個性を持っており、過去に有効だった戦術・戦略を修正する理由を見いだせない
事実、彼らはしばしば、自分の世界観を支持する人たちで自分の周囲を固めることもある
世界をありのままに見ることができない
主な原因の一つは、リーダーと周囲の人々が世界観を共有しすぎていること
人々がリーダーを喜ばせようと思うこともまた、権力の本質
リーダーは意図的に、身の回りの直属の部下以外の人々に正直なフィードバックを求める必要がある
状況を自分の有利になるように作り変え、強みを活かし実力を示すといった、責任と統制の能力を十分に発揮できないという失敗
十分なインパクトを生み出せないという失敗
外部から指名される、例えば政治家のようなリーダーは、勢力基盤を固めるために、しばしば主要な側近や支持者を従える
この基盤によって、リーダーは自分のスタイルに適合するように組織文化を作り変えることができる
しかし、リーダーがこの課題を制御するのに失敗する場合もある
信頼できない自己中心的な相談役から過度に影響を受けたり、あるいは組織内規範に盲目的に従うような罠に落ちたりすることもある
社会心理学の領域の1つであり、人々が自己を制御することを通じて、どのように物事を計画し、自分の満足を先送りし、精神的健康を維持し、そして長期的な目標を達成するかを扱う リーダーの失敗は、時に、自我消耗――つまり、ストレスや他の要因によって自己制御の能力が弱められ、自分本位の歪んだ現実認識を持つこと――から生じる これらの過程は、リーダーの自己向上(self-enhancement)や自己実現の必要性が彼らの目標システムの中で優勢になった時に起こる ヒトの本質、そしてリーダーシップと経営におけるグローバルな課題
ビジネスや経営は、政治と並び、すべての社会変化の重要な手段となりつつある
多種多様な小さくたらしいベンチャー企業もまた世界中の経済活動の一翼を担っている
すべての活動は、無数の共通の要因に依存する
健康な労働者や天然資源、市民社会、十分に機能する経済など
将来には暗雲
最近の財政危機は、社会や経済の多くの要素がリスクに脆弱であることの証左
特に長期的に見ると、気候変動やエネルギー供給、世界的な水資源や他の天然資源の不足、戦争やテロの脅威は深刻
それ以外にも、小さいけれども厄介な社会病理も山積み
例えば、犯罪、薬物中毒、精神疾患といった問題
進化的な分析からは、多くの社会病理や脅威が、いわば経済優先の心理の産物であると考えられる
私たちは平和や満足よりも、富と成長を追い求めている
もしみなが協力的に自己制御を行っていれば共有地の利用者すべてに十分な資源が確約されていたのに、利用者が自分の利益を最大化しようとして自分の家畜を共有地に過放牧してしまうと、それによって共有地が不毛の地となり、全体が破滅に陥る、というプロセス
歴史は、ヒトの創意工夫がほとんど無限であることを示している
著名なダーウィン主義のサイエンス・ライターである、マット・リドレーは、著書"The Rational Optimist(繁栄)"(2010)の中で、ヒトはアイディアを組み合わせたり、あるいは組み替えたりする得意な能力を持っており、この能力を使って専門的な知識や交換関係を築き上げ、適応と幸福をあらゆる面で向上させてきたと論じている 彼はさらに、現代の環境危機さえも、ヒトはそうした創意工夫で乗り越え、繁栄を続けるだろうと論じている
しかし、進化心理学は注意と警告を発する
ヒトの自己制御の1つの最も危険な特徴は自己欺瞞の能力 ヒトは自己制御と協力を実践し、科学的知見を利用して、ヒトが陥りやすい非適応的な意思決定を避けなければならない